on my own

話し相手は自分だよ

ノースカロライナに観劇遠征したときのこと

(先日まとめたブロードウェイミュージカルレビューに加えようか加えまいか悩んだ結果、書かなかった観劇遠征のことについて改めて書き残しておきたいと思います。)

(この記事は2015年夏に書かれたものです。諸事情により引っ込めてました)

 

 

 

 

 観劇遠征が好きで、ここ数年で広島、仙台、京都、静岡など、全国各地にミュージカルを観に行った。観劇遠征の何が素晴らしいって、チケットと交通機関とホテルを押さえた時点で、もう楽しい旅行になることが99.9%保証されるところだ。観劇すればそれだけで心はたっぷり満たされる。そのうえちょっと観光したり、美味しいものを食べたりできれば最高だし、しかも「観光」や「美味しいもの」は「観劇」のオマケなので、雨が降ってもそこまでの味でなくても旅の充実度にはほぼ響かない。

 

 

 確かに遠征は好きだけれど、まさか、アメリカに留学に来てまで遠征することになるとはさすがの私も予想だにしなかった。ブロードウェイ関連のニュースをだらだらと読み流していた私の目に、この記事のヘッドラインが飛び込んでくるまでは。

 

http://m.playbill.com/news/article/side-show-star-will-be-next-to-normal-for-north-carolina-theatre-complete-cast-announced-345263

 

 next to normal。

 2013年にシアタークリエで日本版の上演を観て以来、常に「絶対にいつかブロードウェイで観たい作品マイリスト」のトップを独占し続けてきたミュージカル。とっくにブロードウェイでの上演を終えたこの作品が、どうやらノースカロライナの市民センターのような場所で再演されるらしい。

 ノースカロライナ。それどこ。

 カロライナのノース。まずカロライナがどこだよ!

 Google MapにNorth Carolinaと叩き込んでニューヨークからの行き方を検索した。ラガーディア空港発、ローリー空港着。国内線で二時間もかからない。日本で言えば成田→福岡。 

 行ける。行きたい。行かねば。

 っていうか、行く以外の選択肢がまずありえない。

 語学学校やインターンの予定としばらく睨み合い、約一時間後には飛行機からホテル、チケット、空港リムジンバスの予約に至るまでキッチリ完了していた。

 ひとりぼっちの弾丸観劇遠征一泊二日in USA、決行。

 

 

 さて、あっと言う間に旅行当日がやってきて、私はつつがなく空港までたどり着き、シュッと飛行機に乗り、おやつに日本の友人が送ってくれた海苔の梅挟み焼きを食べて隣の席のお客さんに怪訝そうな顔をされ、ホテルに荷物を置き、タクシーで中心部まで向かい、軽く腹ごしらえをして、next to normalを観劇、ありえないくらい泣いて目元を真っ赤にして劇場を出た。

(そこ省略すんのかよ、と思われるかもしれないが、あまりに素晴らしくてあまりに感無量で何も言葉が出ないので、ここではとにかくnext to normalはサイコー!! Beautiful!! Amazing!! Breath-taking!!! だから早く日本でも再演してくださいと主張するにとどめておきたい)

 

 

 時刻は夜の十時。行きのタクシーのおじさんから、「もしかしたらタクシーが捕まらないかもしれないから、あそこに見えるマリオット・ホテルでタクシーを呼んでもらうといいよ」とアドバイスされた通りに、私は宿泊客を装ってボーイのお兄さんに声をかけた。

「タクシーを呼んでいただけるかしら(可能な限りエレガントな感じで)」

「もちろん。ちょっと待ってくださいね、俺のマブダチ呼びますんで(意訳)」

 いや別にマブダチじゃなくて普通のタクシーでいいんだけど……と思いつつマリオット・ホテルのWiFiを盗みながらしばらく待つと、ちょっと高級そうな車が入ってきた。これは町の流しのタクシーよりも高くつくパティーンのやつ……でも仕方ないか、ホテルのタクシーなら安心だろうし。きちんと財布を持っていることを確認してから、私は大人しく「マブダチ」の車に乗り込んだ。

 

 しばらく「マブダチ」のおっさんは静かに車を走らせていたが、ある時おもむろに話しかけてきた。

 

「この街は気に入った?」

「ええ、まあ……っていうか私、この街では何にも見てないの」

「えっ?」

「この街のシアターで私の一番好きなミュージカルをやってて、さっきまでそれを観てた」

「観光してないの?」

「そんな暇ないよ、お昼の飛行機で来たんだから。明日の朝の飛行機でニューヨークに帰るよ」

「じゃあ君はミュージカルだけ観にローリーまで来たってことか!?」

「でもミュージカルが本当に良かったから、私もうすっごい満足してて」

「アーユークレイジー?」

「あ?」

「アーユークレイジー!?」

 

 おじさんは突然車の方向を変えた。

 

「じゃあ○○(知らない)も××(聞き取れない)も見ずに君は帰るのか!! 信じらんねえ!! ホラ俺が今からまず○○の横を通ってやるからよく見て行け!!!」

「Noーーーー!! ストップストップ!! いいよ別に!! そのままホテル行ってよ!!!」

 私の抗議の声をまったく聞き入れず、勝手に○○のほうへ車を走らせるおじさん。

「これが○○だ!! この角度が一番いいんだ!! ほらカメラある? スマホ? スマホあるなら早く写真撮って!! 窓開けていいから!!!」

「オ、オーケイ」

「馬に乗った兵士の像が見えるか? あれがうんたらかんたら(覚えてない)見えたか? 撮ったか??」

「見えたってば、撮ったってば!!」

「じゃあ俺はここから黙るからムービーを撮れ。君のスマホはiPhoneだろ。撮ってるか? 写真じゃなくてムービーを撮ってるか?」

「撮ってるよ・・・・・・」

 引き気味の私をよそに、おじさんの暴走は止まるどころかますますヒートアップしていく。

「ほら、ここが博物館だ!」

「閉まってるね」

「降りて!!」

「あ?」

「いいから早く降りて!! 俺があのモニュメントの前で写真を撮ってやるから!!」

 もうこの頃には私もなんだか勢いに飲まれて変にテンションが上がってきて、謎のモニュメントの前で変なポーズの写真をたくさん撮ってもらった。警備員のおじさんを捕まえて、私とおじさんのツーショットまで撮った。

 なんだかんだで3~40分近く、おじさんは私を引き回して、小さな街のあちこちの名所を駆け足で巡ってくれた。正直、真っ暗でなにが何なのかはさっぱりわからなかった。

 

 ようやくホテルへ進路を取ってくれたおじさんが、(聞いてもないけど)身の上話をし始めた。エジプトからの移民で、もう20年ほどアメリカで働いているそうだ。

「エジプトに帰りたいとは思わない?」

「思わないね。居心地が悪いんだよ。俺はクリスチャンだから」

「あーなるほどね。私にもエジプト人のクリスチャンの友達がいるけど、やっぱりムスリムのエジプト人とは気まずいって言ってた」

「ふーん」

 私の話にはそこまで興味がないらしかった。本当に自由だなこのおっさん。

 景色にまったく変化のない高速道路をぼんやり見ながら、おじさんの仕事の話や、家族の話、政治批判を聞き流した。おじさんのせいで涙はカラカラに乾いて、舞台の余韻も吹っ飛んでしまっていたが、どこか心地よい倦怠感にとっぷりと浸って、今にも眠ってしまいそうなのを必死に堪えていた。

 

 

 もうそろそろ着くかな、と思った頃、おじさんがポイと私に何か黒くて硬い機械を放って来た。

 ってこれタクシー代払うやつじゃん!!

「好きな金額払っておいて」

「アーユークレイジー?」

「行きもタクシーだったんだろ。じゃあ同じくらい払っといてくれたらいいよ」

 私はちょっと考えて、行きの金額に15%ほど上乗せした金額を入力し、カードをスライドさせて支払いを済ませた。そのことを伝えると、「君はいいお客さんだ」と言っておじさんは機嫌が良さそうに笑った。

 ホテルの正面玄関タクシーを寄せたおじさんは私と一緒に車を降りて、私に名刺を押しつけた。

「君はこの街に戻ってくるんだ。そしてここに連絡するんだ。ここだよ。このアドレス。わかる? そしたら俺がこの街を全部案内してやるから」

 そう言って、でっぷりと大きなおなかを揺らしながら私をハグし、おじさんは真夜中のローリーへと消えて行った。

 

 

 ホテルに戻って母親に電話し、その話をすると、絶縁されんばかりに叱られた。

「あんたみたいな、簡単に他人を信じるバカな若者が旅先で事件に巻き込まれて殺されるんだからね!!!」

 ごもっともすぎてなにも言えなかった。

 

 

 思い返せば思い返すほど不思議な二日間だったなあと思う。隙あらばShort Interaction(赤の他人とのちょっとした関わり)を楽しもうとするアメリカ人の真髄を見た気がした(厳密にはエジプト人だけど)。

 おじさん、あのときは本当にありがとう。

 

 というわけで、もしこのブログをご覧の方で、ノースカロライナにお出かけの予定のある方は、私のマブダチを紹介しますので、ぜひ、ご連絡ください。

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