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話し相手は自分だよ

インドに行った女は本当にモテないのか:前編

私は悩んでいる。私は私が『インドに行った』という事実を持て余している。こいつをいったいどうしてやろうか、と考えている。インドに非はない。そして私にも非はない。私は『インドに行った』という事実が現代日本社会において持つ意味、なぜこんなにもインドだけが善良な市民の想像力を凌駕しうるのか、という哲学的なテーマについて、ひとり思索に耽っている。


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ニューデリーの街角で。


ややこしく書きすぎた。つまり「インドに行った」と言うだけで、ドン引きされてしまう現実に、困惑しているだけだ。特に同年代の男性の反応が芳しくない。へ~、旅行好きなんだ~、海外とか行ったことあるの? そう尋ねられるたび、私は今まで訪れた国を指を折って数え上げる。まずアメリカでしょ、スペインでしょ、マレーシア……そこまではいい。問題はインドだ。インド。えっ、インド!? インド行ったんだ……え、なんか、のいさんってすごいね。何がすごいんだろう。確かにハワイだのオーストラリアだのに比べれば、旅行先としてマイナーではあるし、決して観光立国とも言えないが、銃撃戦が頻発するわけでもなく、ましてや、ヤバい疫病が蔓延っているわけでもない。いちおう英語は通じるし、都市部ならショッピングモールもお洒落なカフェもコスメのお店だってあるし、夜道を女性だけで歩いたりさえしなければ特に命の危険を感じる事もない。


私がインドに行ったのは、自分の研究のためなので、バックパッカーをしていたのでもなければ、ガンジス河でバタフライをしたわけでもないのだが、彼らにとってその辺の事情はさして重要ではないらしい。何でそんなところに行ったの、とも聞かれる。もともとアジアの国々には興味があった。国教がヒンドゥー教というところにも惹かれた。前年に訪れていたマレーシアがイスラム教の国だったので、信仰のあり方や街の雰囲気を比較してみたかった。また、インド映画『きっと、うまくいく』を気に入って劇場に3回も観に行ったほどなので、あのインド人特有の巻き舌の強い英語を生で聞いてみたかった。そんなようなことを言ってみても、なんだか要領を得ないような顔をされる。人生変わった? そんなことも聞かれる。インドに行く人はたいてい人生が変わって帰ってくる、という都市伝説があるらしい。インドに行ったくらいでころっと変わるようなお手軽な人生を送れるハッピーなパーリーピーポーはカンボジアで井戸でも掘ってろと思うのだが、特に人生は変わらなかった、と素直に言うと、人によっては露骨にガッカリされる。


ところで私の父親はサイババに会いにインドにある彼の寺院まで行ってしまうようなエクストリームな男なのだが、そんな父にドン引きするならまだ分かる。私だって我が父ながらちょっとどうかしていると思う。しかし、たかだか一週間程度ニューデリー近辺をふらふらしたくらいで、そこまで引かなくてもいいではないか。最初は「女のくせに通ぶってインドとか行って……」という意味での「引き」なのかもしれない、と思っていたが、どうやらこれは"インド"への偏見であるようだ。そして、そこに「女が」「パックでもツアーでもなく個人で」がぶら下がることによって、ますます彼らの理解の範疇を越えてしまう。何の因果でインドだけが、彼らの脳内地図の中で、かつて西洋の人々が『極東』と呼んだような片隅にまで追いやられてしまわなければならないのか。


というかそもそも、どうして私がこんな朦朧とした文章を書いているのか、それを説明するには私がTinderというマッチングアプリを始めたところまで時間を巻き戻す必要がある。Tinderとはfacebookと完全に連動しているアプリで、一般のパーリーピーポーがハングアウトできるフェローとマッチしてグッドなタイムをシェアするための、いわばリア充版出会い系サイト……と言ってしまえば誤解を招くのであろうが、これまでの出会いアプリと一線を画すことは間違いない。話題になっているものに首を突っ込んでオモチャにするのが大好きな私が、これを見逃すはずがなく、アプリをDLして15分後にはすでに数名の男性とマッチングが成立していた。その中で、タージ・マハルをバックに佇む写真をプロフィール画像に設定していた男性がいた(以下、便宜上彼をインド氏と呼ぶ)。マッチングが成立した男性の中でも、落ち着いた文体でメッセージを送ってくるインド氏は特に好印象だった。私はインド氏とLINEを交換した。やっと私がインドに行ったことをポジティブに受け止めてくれる男性と出会えたと思った。


しかし、得意の特定作業(過去記事参照)を駆使してインド氏の経歴を掘って行く作業の中で、私はあることに気が付いてしまった。この人、ツアーでインドに行ってる……。長期休みの前になると、大学の前で配られるパンフレットに載っているような、飛行機からホテル、買い物する土産屋に三度の食事と文化体験まで、全部お膳立てされているタイプのパックツアーだ。やっちまった、と思った。来週、私は彼と観劇をして食事に行くことが決まっている。インド氏は私の話にやっぱり引いてしまうのだろうか。これはリア充御用達出会いアプリ(と、そこで出会った縁もゆかりもない男性)をネタにブログを書いてアクセス数を稼ごうとした下衆な私にシヴァ神が与え賜うた試練なのか。



インドに非はない。そして私はインドが好きだ。いつか、私のインド体験談を、優しい目で聞いてくれる男性が現れるだろうか。そして、私とインド氏のハングアウトはレッツハブファンでイッツオールウェイズアグッドタイムになるだろうか。待て次号。