on my own

話し相手は自分だよ

つづ井さんは寝た子を起こしてしまったかもしれない ──地獄は地獄のままでありつづけるという話


【9/15追記しました】

はじめに言いたいことは、つづ井さんのメッセージは、彼女のファン層と影響力を鑑みても、おそろしく真っ当で、健やかで、まさしくこの時代にそぐうものだということだ。つづ井さんのような、感性のやわらかさと絶妙なバランス感覚を併せ持った方から、このようなメッセージが発信されたことをとても嬉しく思うし、彼女の気づきと決意が多くの女オタクの心にまっすぐ届いて、救いとなったことに間違いはない。それでも、きっとどこかに、つづ井さんでさえ救えなかった人、それどころかますます心の闇を深めてしまい、苦しんでいる人がいるのではないかと思い、このエントリを書いている。というか、いま、現在進行形で、私が苦しんでいる。この文章が同じ地獄を見ているどこかの誰かに届くことを願います。


つづ井さんの「メッセージ」、という書き方をしたが、実はつづ井さんは、誰かに何かを語りかけようとしていない。ただ、自分の身に起きたこと、自分の心の中で起きたこと、そこで自分はこうすることにしました、ということを書いているだけで、「みんなこうしようよ」「こうするべきだよ」とは一言もいっていない。私はこれをとても賢明というか、なるほどなぁ~と思ってしまったのだが、結局ここで「独身オタクでも自虐やめようよ」「自分に自信を持つべきだよ」と書いてしまうと、「女は結婚して子供を持つべきだよ」勢とやってることが同じ(つまり、他人に自分と同じあり方を強いる)ということになってしまう。彼女はこれを巧妙に回避している。無自覚なのだろうけれど……。


つづ井さんのnoteを読んで多くの人が感動した。幸せな気持ちを分けて貰えた。これは紛れもない事実だ。しかし私はこれを読んで、「いい文章だなあ、RTしたい!」と感動すると同時に、自分の心の中のゴチャゴチャと片付かず薄暗い片隅で、なにか意地悪な気持ちが蠢くのをはっきりと感じていた。


これを読んだ人たちは、他人からとやかく言われ傷つき疲れた自分を慰めてもらった心地がするだろう。そして、(つづ井さんがそうすることをまったく奨励していないにもかかわらず)、私も自虐をやめて、自分のあり方を肯定しよう! と思うだろう。繰り返すが、もちろんそれは素晴らしいことだ。自分が自分であるだけで、何かが間違っているような気がする状態というのは、あまりに苦しく、悲しい。


しかし、彼女たちはそう時を置かずに気がつくはずだ。自分で自分を否定する日々から脱したところで、そこはともすれば、元いた地獄とそう変わらない、また別の地獄かもしれないということに。


一つめの地獄。"私は"自分のあり方を否定しない。自虐しない。そして他人も貶めない。私はこれでいいんだ! そう決めたところで、"私"のあり方を否定し、貶め、改心させようとしてくる人たちは、いなくならない。それどころか、他人のあり方に口出ししてくる人のウザさが明白になってしまったぶん、今までよりしんどくなってしまう恐れさえある。


ここで隙あらば自分語り。
子持ちの既婚女性に囲まれて仕事をしたことのある私の経験から言うと、「独身で寂しいでしょ」という類の圧力に対し、「私は趣味もあるし友達もいるからぜんぜん寂しくありません、毎日とっても楽しいですよ」と反撃に出るのは、これ以上ない悪手である。それが紛れもない事実であろうと、だ。そんなことを言えば彼女たちは目の色を変えて「この哀れな小娘の考えを改めねば」とますます圧力を掛けてくることになる。


じつは、彼女たちは私に、彼氏や旦那と子をもうけて幸せになってほしいわけではない。本当はただ『自分の人生を肯定してほしい』のだと、気付いたのはその職場に入って半年ほど経った頃のことだった。そこで私は対応を変えた。「ほんっと結婚したいし子どもも欲しいんですけど、なかなか出会いがないんです。良い人いたらマジ紹介してくださいよ~!! イケメンで金持ちのインド人がいいな笑」とかなんとか、そんなふうに返すと、彼女たちは「何よインド人って~! まずはインド美人に負けないメイクを勉強しなさいよ~」とにこにこ笑ってその話題を終わりにしてくれるのだった。


パートタイムとして働く彼女たちは皆、子供や家庭のために、一度自分のキャリアを捨てている。
そんな彼女たちを、既婚子なしの上司は「まともな仕事をしたことのない人たち」と陰で蔑んでいる。
「今夜は娘の好きなホイコーロー作るの」と言いながら退勤処理をし、「快速行っちゃう~」とものすごい勢いで職場を出ていく背中を、どういう気持ちで見送ればいいか分からなかった。


私が言いたいのは、現代日本社会というのは単に独身オタク女性が迫害される社会なのではなく、自分の選んだ人生を自分で肯定できない人のたくさんいる社会ということだ。さらに、自分の人生は本当にこれでよかったのか、確信を持てない人たちは、自分と違う人生を選んだ人を否定することで、自分の人生を肯定しようとする。つまり、私の職場でいうと、パートさんたちは私や上司を「可哀そうな、寂しい人」扱いすることで、そしてキャリアウーマンの上司はパートさんたちを「安易に家庭に入った人」扱いすることで。そしてそれは決して、彼女たち個人の「怠慢」や「努力不足」に100%起因する事態、つまり完全な自己責任ではありえない。
そんな社会において、自分の独身オタクというあり方に胸を張り、「私は幸せです」と言い切れるつづ井さんに対して、反感を抱いたり、彼女を僻んだりする人に向かって、少なくとも"私"は「人の足を引っ張る嫌なやつ」と石を投げることができない。


二つめの地獄。私たちがつづ井さんに心動かされ、今の自分のあり方に確信を抱いたところで、つづ井さんは責任を取ってくれない。


いや、取る必要なんか全然ないよ。ないんだけど、つまり、私の人生の選択の責任を、私以外の誰もとってくれない、というシンプルな事実。シンプルだけど、ときどき忘れそうになる。


私たちには選択肢が与えられている。ことになっている。男を愛するも女も愛するも自由。結婚するもしないも自由。子どもを産むも産まないも自由。


それでも「結婚出産」=「問答無用で良いこと、素晴らしいこと」という価値観は未だ保存されたままでいる。「愛する人といっしょになりたい」「自分の子どもに会ってみたい」という人に結婚や出産のリスクを並べ立て「あなたの人生は本当にそれでいいのか、後悔しないか」と水を差す人は、いなくはないだろうがメチャメチャ嫌われるだろう。しかし、その逆をする人は……言うに及ばず。


そんな社会で、あえて、問答無用で祝福されないほうの人生を選ぶ人、また特に選んだつもりはないが自動的にそうなった人が、果たして、私は自分の人生を後悔しませんと、胸を張って言えるだろうか? 何だかんだで振り切れることができず、悩み続けるのではないだろうか?
選択ができるようになった、素晴らしいことだ。それでも、私たちはみんながみんな、膨大な情報を処理し、自分の状況を冷静に考慮し、誰にも忖度せず、純粋に自分の意志で、最適な行動をとることができるだろうか? 中にはいろんな理由でそれが難しい人がいる。傍目からは決して幸福でない選択をしてしまう人がいる。そんな人たちを、「あなたにも選択肢が与えられていたのに。きちんと考えて行動できなかった、この状況を予測できなかったあなたが悪い」と突き放す社会であるなら、もしかするとそこは単に2Pカラーの地獄ではないか?


つづ井さんのように自分を肯定できない人もいる。つづ井さんのように思い切れず、マッチングアプリをアンスコできない人もいる。もちろん、その人たちにつづ井さんのような人が遠慮・配慮する必要はまったくない。
ただ私は、そんな人たちの葛藤が、意味のない、時代にそぐわない、弱者の思考だと、一蹴される社会であってほしくないと思う。人生に回答編なんて存在しない。日本がとってもポリティカリー・コレクトで、どんな個人の尊厳も守られる天国のような場所になる日はまだまだ来そうにない。私たちの多くは悩み続け、苦しみ続け、また後悔をする、その繰り返しで歳を取っていくのだと思う。もちろん「これは私の選んだ人生で、わたしは私が大好きだ」と言えたらそれ以上うれしいことはない、でも、そう言えないことで、また自分を責めることほど、悲しいこともない。


つづ井さんは辛い思いをしながらも、自分を、自分をかたちづくる全てを誇ることを私たちに教えてくれたし、それは本当に素晴らしいことだ。その点をしつこいくらいに繰り返したうえで、私は、自分のあり方を問い続ける人のことを尊敬する。そして、現在進行形でどじょうの如くもんどりを打って悩み苦しんでいる私自身のことを、今夜くらいは祝福してあげたいと思う。



【9/15 追記】
想像をはるかに超えて多くの方に読んでいただいているようです。ありがとうございます。ちょっと反応を見て回ったら気になる反応がありましたので、言いたいことを言わせてください。

①私はつづ井さんの言うことやこれからすることをひとつも非難しません。つづ井さんのnoteを読んで自虐をやめようとか自分を肯定しようと思った方々についても同じです。このエントリで何をさておいてもまず始めに言ったように、とても素晴らしいと思うし本当にその通りにしていただきたいです。

②私はつづ井さん個人に向けてこれを発信していません。私がつづ井さんに何かを要求していると読み取った方が複数名いましたが、私は私を救うためにこれを書いただけです。
つづ井さんに責任を取れとも、配慮しろとも言ってないし、そういう表現はちゃんとひとつひとつ否定していたはずなんですが、誤解を招いてしまったなら申し訳ありません。以後このようなことが起きないよう対策を講じます。

③こんなことを長々と書く意味が分からない、だから何? 知らんがな、という反応もわりと多くありましたが、あなたには意味ないんでしょうけど私にはあるんです。これも何故かよくわからないんですけど、他人が作ったものが自分のために作られていないことに怒り出してしまう人っているんですよね。not for meという便利な言葉があるので使ってください。

共感を寄せてくださった方も本当に多くいらっしゃって、夕飯を抜いて書いた甲斐があったなあ(夕飯を抜くことは推奨しません)と泣きそうになりました。この記事は、ご指摘にもあったように、何も訴えていないし何も非難していない、何の発展の見込みもないどん詰まりの私のお気持ちです。それでもこんな私のお気持ちに寄り添ってくれる方がこんなにいるなら、きっとすこしずつ、私が「地獄」と呼んだ場所も良くなっていってくれるのではないかと思いました。ありがとう。Let's make the world a better place.

【ひとこと】
ブログにコメントもたくさんいただいています。ありがとうございます。私の文章からなにかを受け取って言葉を尽くしてくださったことにただ感謝です。質問もいくつかいただきましたが、特に私からお返事することはありませんのでご了承ください。