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ブロードウェイミュージカル雑なレビュー16連発+NY観劇豆知識

 こんにちは。のいです。二〇一五年三月から六月までの三か月、ニューヨークに語学留学しておりました。その間にブロードウェイミュージカルを、オンオフ合わせて十六ほど鑑賞しましたので、ざっと簡単にレポートというかレビューというか、感想を書き連ねて行こうと思います。観た順です。

 


Matilda
親に愛されずに育った天才少女マチルダが、超能力に目覚め、厳格すぎる女校長の支配する学校を解放し、温かな愛情を手に入れる話。パズルのピースや本に埋め尽くされた遊び心いっぱいの可愛い舞台と、ティム・ミンチン作曲の軽やかで風刺の効いたナンバーが楽しい。子役ちゃんが縦横無尽に駆け回るのでショタコンロリコンは観ずには死ねない。毒のあるファミミュという感じで、イギリス式ユーモアがお好きな方は特に楽しめるはず。ちなみに、感動のあまり無我夢中でスタオベしてオペラグラスを落っことした(後日発見されました)。

Kinky Boots
靴工場を継いだ冴えないマザコン男性が、ドラァグ・クイーン達のための特注ブーツを作って大成功する話。ラ・カージュ・オ・フォールあたりとギラギラ感は大体一緒。シンディー・ローパー作曲のナンバーの数々がとにかくノリノリで耳に残り、踊りながらサントラ買いに行きたくなること間違いなし。パーッと楽しくなりたいときにぴったり。ただイギリス英語がマジでしぬほど聞き取れない。現地在住の日本人でも難しいそうです。プロデューサーとして元四季の方が関わっていることでも有名。

Wicked
四季でもお馴染み、『オズの魔法使い』の悪い魔女がなぜ生まれたかを描く、ファンタジー色大爆発のメガミュージカル。四季より頻繁に笑いが起こるので四季を観すぎたのいは戸惑いました。台詞を注意深く聞いていると、四季版と大分違うことに気が付き、更に四季版がどれだけ考えられて訳されているか分かる。未見の方よりは、一度日本語で観てる方におすすめ。ロビーに初演時の大道具などが飾られているのは一見の価値あり。エルファバとカカシのあのシーンで「オゥ…」と観客が溜息をもらすのが地味に笑えて困った。

Hedwig and the Angry Inch
性転換手術に失敗して「一インチ」残ってしまったドラァグ・クイーンのヘドウィグが、自らの生い立ちを語る。映画未見の方は、ウィキであらすじ予習→舞台→映画の順にぜひ観て頂きたい。なんというか、自然災害のような舞台です、はい。何が起こったんだろうって感じ。説明できない。観るしかない。劇場であんなに声を枯らして叫んだのは初めてだった。体力たっぷり蓄えて、心の準備して、ヘドウィグの求めた「愛」に思いを馳せながら、どうぞ。

IF/THEN
我らがイディナ・メンゼル主演舞台、一人の女性の二通りの人生を交互に、という複雑な構成が災いしてか、あんまりヒットしなかったようで三月の暮れにクローズ。クリエイター陣はネクスト・トゥ・ノーマルのトム・キットとブライアン・ヨーキーにRENTのマイケル・グライフ、イディナの横にはまさかのアンソニー・ラップで、イディナとアンソニー朝チュンもあるよ。確かに話は複雑だけど、陰影の美しい舞台と、繊細な旋律、そして何よりイディナ! イディナ! イディナ!! イディナがサイコーだったので文句なしの大喝采。イディナなしでのリバイバルは、うーん……なさそう。未見でも楽しめるサントラはおすすめ。

It's Only A Play
新作ブロードウェイミュージカル初日を終えたプロデューサーや俳優たちが、劇評家の評価が出るのを固唾を飲んで待っているっていう、それだけのストレートプレイで、舞台に出てくるものが俳優以外ひとつも動かない。大物俳優が共演するから観ておくと後で自慢できるよ! とBWヲタの方に言われて観に行ったらアメリカ人的ユーモアを先十年分くらい過剰摂取してしまった、というのが正直なところ。ブロードウェイあるあるネタが練り込まれているらしいので、詳しい人には笑えるんだろうなあ。リスニング力を試したい方に。隣に座っていたおばさんと仲良くなっておやつをもらいました。

My Big Gay Italian Wedding
オフ・ブロードウェイ作品。イタリア系の二人のゲイが、母親や元カレに邪魔されながら、なんやかんやで結婚式を挙げる頭カラッポで愉快なコメディ。こぢんまりした劇場の、最後列(安い)に座っていたら、「お客さん少ないしもっと前に座りなさいよ!」と係の人に促され、まさかの席移動。自由だ。自由すぎる。途中、本当に式に参列しているかのように起立させられ、そして終演後にはゲイ新郎新婦…新郎新郎? からのまさかのお見送り。「この子ボクの従妹でさ~」「へえ~」とか適当なこと言われながらゲイにハグされる経験は(恐らく)世界でもここだけ、のはず……。

The Curious Incident of the Dog in the Night-Time
今年度トニー賞作品賞受賞のストレートプレイ。自閉症の傾向を持つ男の子が、近所の飼い犬が殺された事件を解明しようとするうちに、父親の嘘を見破ってしまう。唯一リピートした演目。小道具も大道具も最小限で、鉄道模型と、四角い箱がいくつかあるだけ、あとは全部ソファもドアも自販機も人間がやる。壁と床の全てがスクリーンになっていて、夜のロンドンにも、家の中にも、宇宙空間にもなってしまう。皆が主人公の男の子にわかりやすいよう話すので、初見でも大変聞き取りやすいです。心にぐっと迫る美しい舞台。「クリストファーの素数シート」に当たると、限定の可愛い缶バッヂがもらえるチャンス! 等、楽しい仕掛けも。

Mamma Mia!
四季でもお馴染み、美しいエーゲ海の島で、二十歳で結婚しようとする女の子が父親候補を三人集め、本当の父親が誰か突き止めようとする。ABBAの名曲をずらりと揃えた所謂ジュークボックス・ミュージカル。同じ演目のはずなのに四季よりずっと下品(褒めてる)。アンサンブルみんなガタイが良いのに更に半裸になるので、ダンスシーンが濃い事、濃い事。眩暈がしちゃう。『ヴレヴ酔い』と名付けました。ワーッと楽しい賑やかなシーンと、透明で静か光に包まれた母と娘のシーンとの対比が鮮やか。

Les Miserables
ロンドン発のメガ・ミュージカル。パンひとつ盗んだ罪で長年投獄されていた男が出所後いろいろあって可愛い幼女育てて大往生する話。この狭いスペースでは書き切れないのでウィキとか読んでください。いろいろあっていろいろ出てくる、複雑かつ壮大な舞台だけど歌がとにかく良いので歌だけでもう心が豊かになる。ドーン! バーン!!! 感動ー!!! って感じの舞台が観たい方はお腹いっぱいになれるはず。隣の席に偶然座っていた日本人のお姉さんと、終演後「マリウスもうちょっと喪に服せよ!!」というのでがっつり意気投合して連絡先を交換した。

AvenueQ
某パペット教育番組を散々バカにしてコケにした内容で、それでも何故か感動できてしまう嘘みたいなオフブロードウェイ作品。パペットの濃厚な濡れ場が観られるのは、かつて物議を醸した性教育ぬいぐるみを除けば恐らく世界でここだけ。作詞作曲はあのLet It Goのロバート・ロペス。"The Internet Is For Porn" "If You Were Gay" "Everyone's a Little Bit Racist" 等、ナンバーのタイトルから、どんな雰囲気の舞台かお察しください。腐女子としてはロッドとニッキーのほのぼのギャグ本を5冊くらい作りたい。ゲイとノンケのルームシェア、最高。

The Book of Mormon
AvenueQとSouth Parkのクリエイターがタッグを組んだ(この時点でもうヤバイ)、地上最凶に下品で不謹慎でブッ飛んだメガヒット作品。二人の若きモルモン教の宣教師がウガンダに送り込まれ、HIVや貧困や暴力渦巻く貧しい村で人々に教えを説こうと奮闘する。宗教的・社会的タブーに敢えて挑む……っていうか、そこまで挑んじゃって大丈夫かよ!? もうやめてよ!!! と観ながら精神が不安定になってくる。英語が分からなくてもとにかく目の前で繰り広げられている事態が死ぬほど不謹慎だということは理解できる、もはやあっぱれなミュージカル。でもサントラのレビューに「俺モルモン教徒だけど、これ好きだわ」っていうのありました。

Beautiful
ポップス界の生きる伝説と呼ばれるキャロル・キングの半生を描いたジュークボックス・ミュージカル。くるくると展開する舞台は色鮮やかでワクワクさせられるし、レトロでポップなお洋服を着たアンサンブルさんがたくさん出てきて、好きな人はうっとりできると思う。ただ何故かキャロルのファッションだけがとんでもなくダサい。これ実在のキャロル本人はどう思ってるんだろう……と心配になる。客席の年齢層が高めでみんな楽しそう。隣に座ってた初老のご夫婦が終始お手手を繋いでにこにこしながら身体を揺らしていたのが素敵すぎて、そこで泣いた。

FUN HOME
今年度トニー賞作品賞受賞作。レズビアンの漫画家アリソンが、幼少期から青春時代の父親との思い出と自身のセクシャリティについての意識の変化を振り返る。丸い舞台を客席が囲み、時間を行ったり来たりする舞台の上で、現在のアリソンだけは変わらずそこにいて、過去を見つめて絵を描こうとする。複雑な構成なんだけど、不思議と混乱なく観られます。葬儀屋を営む家に生まれた三兄弟が勝手にCMソングを作る"Come To The Fun Home"、彼女と初Hした翌朝のアリソンがパンツ一丁で歌う"Changing My Major"等、愉快なナンバー盛りだくさん。どこか懐かしい、でも『こんな舞台観たことない!!』っていう、震えるような感動がありました。個人的に、16演目の中で最も深く心に響いた作品。

The fantasticks
一度「客集まらないしクローズするわ」って言ってたのに「やっぱ続けるわ」ってことでまだまだ続く、1960年からの超ロングランのオフブロードウェイ作品。ちょっと頭の悪い男の子と、ちょっと頭の変な女の子と、その父親たちと、謎のダンディ中年と、完全に頭のおかしい二人のおじいちゃんと壁がワチャワチャする、話らしい話も特にない作品なのに、どうしてこんなに心に沁みるのか……。一幕頭で歌われる"Try To Remember"をYouTubeで聴いてピンと来た方は絶対に観て下さい。ちっちゃい劇場でお客さんもあんまりいないので、当日にふらっと立ち寄るので充分です。


★観劇豆知識

チケットの取り方
絶対に観たい演目と、土日の上演、TKTSに出ない演目は、日本から予め取っておくといいです。チケットを取り扱っているサイトはいくつかあり、演目によっては価格や出ている席が異なるので「演目名 ticket」でググって比較。当日券は劇場窓口に並ぶ、TKTSに並ぶ、抽選に参加する、など、演目によって異なるので「演目名 lottery」「演目名 rush」等で検索、公式サイトのFAQも必読。

TKTSについて
オンオフストプレに関わらず舞台作品が当日券のみ、最大半額で買える神様のような非営利団体。どんな演目がいくらで売られるかは公式アプリで確認できる。経験上、窓口が開く前から並べば二列見切れとか、八列センター寄りサイドとか。出遅れると二階後方とか。有名なのはタイムズ・スクエアの店舗だけど、おすすめはブルックリンの支店。その日の夜公演と、なんと翌日の昼公演も買えます。穴場なのであまり並ばなくていいのも嬉しい。ブルックリン観光のついでに是非。

抽選に参加する
多くの作品で当日券抽選をやっていて、運が良ければ30ドルちょいで人気演目を観られる。だいたい開演の二時間半前に集合、二時間前に当選発表、ということになってるけど、開演二時間前ギリギリでも大丈夫です。ちなみに、写真入りの身分証が必要なのでパスポートを。学生は国際学生証でもOKなので生協とかでぱぱっと作ると便利です。WickedとThe Book of Mormonの抽選にそれぞれ三回挑戦し三回目で当選、Aladdinは四回やってもダメだった。アプリ「TodayTix」やTwitterなどで劇場に行かなくても手軽に参加できる抽選もあります。

演目の選び方
公式サイトに行けばだいたい舞台を切り貼りした動画が観られるので、それを見比べるのもいいのですが、おすすめはネットラジオサイトのAccuRadio。Broadwayというカテゴリの中にNow on Broadwayというチャンネルがあって、上演中の演目のサントラを延々ランダムで聴ける。これを垂れ流しにして、ピンと来たものを観に行く方法。日本で知名度の無いミュージカルで好みのものを見つけるのにぴったりだと思います。

予習
日本語のウィキがある作品は少ないので、私は英語版ウィキの「Synopsis」の項を辞書を使いながらきちんと読んでました。これで理解度が大きく変わってきます。すっごく詳しいから舞台に置いて行かれずに済んで超助かる。初見のワクワク感が好きだからネタバレはちょっと、という方でも、最後の数行を読まないだけでも大分ワクワクできるから予習はしたほうがいいです。気に入った演目は売店や本屋でスクリプトを買って復習も。

食事
NYでちょっとレストランに入るとあっという間に数十ドルが飛ぶので、食費を押さえたいけど栄養のあるものを食べたい方には量り売りのデリがおすすめ。イートイン付きの小さなお店があちこちにあります。日本進出予定のシャレオツハンバーガーSHAKE SHACKは食べておくと帰国後のネタになるかも。ポテトが美味しいです。肉に飽きたらテイクアウトの寿司ロールをホテルの部屋で食べても。

買物
ブランド品買う金あったら観劇するけどちょっとウインドウショッピングくらいしたい、という方はSOHOエリアがおすすめ。見るだけで楽しいセレクトショップやお洒落なカフェが集まってて、可愛いお土産もいろいろ見つかる。ちょっと珍しい雑貨をお探しならブルックリンの週末の蚤の市が楽しい。

コミュニケーション
お店に入るとまずハーイ、ハウアーユーなのでビビるかもしれませんが日本のいらっしゃいませなので、ファインとかグッドとか適当に、面倒だったらニッコリするだけでも。劇場でも先にお隣さんがいるときはハイ、の一声を。和みます。たまに飴とかもらえます。私は基本一人観劇だった為か、色んな人に話しかけてもらいました。怖がらないで、偶然の出会いを楽しんでみて下さい。

移動
ガイドには「南北はメトロ、東西はバス」とあるけど、バス難しそうだったので東西は歩いちゃってました。メトロも方向によって別の階段を降りなきゃいけなかったりで厄介で最初は間違えると思います。時間の余裕を持って行動を。南北を走るのがAvenue、東西を走るのがStreet。観劇ヲタは42nd~50th Streetあたりを何往復もすることになります。

Wi-Fi
何人かで行かれる方、旅行に不慣れな方はグループでひとつモバイルWi-Fiを日本で借りるといいです。だいたい最大5台まで同時にネットに繋げます。または、メトロの駅や公園でつなげる場所も。しかし不安定だったり繋ぎ方がややこしかったりもするので、あまりアテにはならない。裏ワザとして、ありすぎだろってくらいいろんな場所にあるコスメのお店SEPHORA。ややこしい設定抜きで、一発でWi-Fiに繋げます。スタバのWi-Fiより便利。あとは「○○Hotel Guest」みたいな名前のWi-Fiもダメ元で繋ぐと使えたりする。Skype Wi-Fiは便利だけど、NYでは繋がりにくいのでおすすめしない。

治安
キョロキョロせず、大股でサッサカ歩くこと。立ち止まる時は壁に背を付けること。常に鞄の口に手をかけること。夜は通りを歩かずメトロやタクシーを使うこと。なるべくテキトーな服を着ること(大丈夫、ブロードウェイに来てる人みんなラフです)。そのあたりを守っていれば危ないことはないと思います。あと、NYの信号は守ったときの死亡率の方が高いらしいので、周りの人と一緒に波に乗って渡った方がいいかも(しかし車は人が歩いてても容赦なく突っ込んでくるのでこれは場合によるとしか……)。

おまけ 現地の人へのプレゼント
PILOTのフリクション。これはすごい。もう、鶴とか折ってる場合じゃない。実演すると、ウケるどころの騒ぎじゃない。魔法のペンの虜になってしまう人、続出。留学する学生さんはルームメイトやクラスメイトにバラまくと後で効くかも。

 

英語専攻でも帰国子女でも何でも無い、ただのアホな学生が書いたものですので、信憑性とかそういうモロモロはアレでソレなのでご了承ください。
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