★2024年5月19日『文学フリマ東京38』にて頒布したコピー本「それわた特別号2024夏」の全文を公開します。当日立ち寄ってくださったみなさんもありがとうございました!次は12月の東京か、今年1月の京都が楽しかったのでまた地方遠征もいいな~と考えています。
Nさん(東京都・三十代・会社員)からのお悩み
「会社の先輩(四十代)のことで悩んでいます。直接話すと感じのいい人だし、仕事も丁寧なのですが、常にその場にいない人の悪口というか、愚痴というか、とにかくネガティブなことをずっと話しています。私のことも悪く言っていると他の社員から聞くこともあり、シンプルに気分が悪いです。正直顔を見るのも嫌ですが、出社日が重なることも多く、彼女がいるだけで憂鬱です。私、どうしたらいいでしょうか?教えて、たほ先生!」
たほ先生からの回答
「注意できる上司がいないとなると、Nさん本人から『そういう陰口を言うのはいやだ』と伝えるべきですよね。でも、それができないのがふつうだと思うので、そういった場合は先輩が悪口を言うのを邪魔してみるのはいかがでしょうか?たとえば、黙って聞いているだけではなくて、『ええ~~?(苦笑)』という相槌を打ってみたり、『うわ~、いじわる~(笑)』『ちょっと言い過ぎでは?w』みたいに、その人の悪口を茶化して矮小化して、先輩を『何かにつけて人の悪口を言うキャラ』に仕立て上げる。そうやってネタ枠にその人を落とし込む。先輩が人の悪口を言うことによって「ズバズバと他人を指摘する私カッコイイ」モードに入っているのだとしたら、それがすべっているのだということ、そして「あなたは特別ではない」ということを教えてあげましょう。きっとそういう人は、それまでの人生で、「話を聞いてもらえる側」であることが多かったと思います。なので、少なくともNさんには陰口が通じない、言ってもなんだかこっちが不快になる、という空気を時間をかけて作りましょう。意識をそういう方向に持っていくことによって、先輩の悪口がそれだけでだんだん耳に入ってこなくなると思います。黙って聞いてるってことは、その悪口を聞いちゃってるってことですよね?(Nさん「そしたら、先輩が悪口始めたら歌いだしたりしたらいいってことでしょうか?」)そうです。コナンの犯人が動機を語るときに流れる曲とか、スネ夫が自慢するときに流れるテーマありますよね?そんな感じで、悪口を言う先輩のテーマみたいなのを、歌うまでしなくても脳内で流したりすれば気が紛れるのではないでしょうか。それか、先輩がそのターンに入ったら無理やり話を変えるとかね。あるいは、たとえばAさんについて「最近Aさん仕事雑だよね」とか言っていたら、バカなふりして「私このあとAさんとミーティングなのでそれとなく伝えときましょうか?」って言うとか。あの手この手で、悪口を「受容しない」行動をとっていけば、いつか気にならなくなってくるはずです。
Tさん(東京都・年齢非公開・会社員)からのお悩み
「私の元カレ(約四名)と夫は全員一番好きなアーティストがミスチルなのですが、私自身はミスチルが特に好きではありません。ミスチルが好きではない私なのにミスチルファンの男性とばかり縁があるのはどういうことだと思いますか?」
のい先生からの回答
回答の前に私がミスチルのことを心から憎んでいるというエピソードをご紹介したいと思います。私は中学生のころ、クラスの男子全員に嫌われていたのですが、ある日、学年全員が集まるレク大会がありました。そこではランダムに選ばれた出席番号の生徒が各クラスから前に出てイントロクイズに答えるコーナーがあったのですが、私の番号が呼ばれて私が前に出た瞬間に、私のクラスの男子が「死~ね!死~ね!」とコールを始めました。そのとき、流れたのはミスチルのsignでした。「なんで答えらんねーんだよ!」「ミスチルに決まってるだろ!」男子たちに罵られ、私はその瞬間からミスチルが大嫌いになったのでした。
それはともかく、ご質問に対する回答ですが、普通にミスチルが好きな男性が多いだけなのではないでしょうか?あなたは付き合った男性が全員ミスチルが好きという、至極蓋然性の高い事実に対し、何らかの奇跡的な繋がりや運命じみた何かを見出そうとしているのかもしれませんが、実際そこにそんなものは無いと思います。
そんなことを気にするよりも、ミスチルなどという爽やかで耳当たりがいいだけの音楽を好むような凡庸な男性とばかり付き合ってしまう己の安易さを恥じるべきではないでしょうか。(Tさん「これミスチルに刺されるよ!?」)私がミスチルに刺されたとしても、私が中学生のときに受けた心の傷に比べるとなんでもありません。かかってこい!
Nさん(東京都・三十代・会社員)からのお悩み
「地元のスポーツクラブに通っているのですが、8割の客が高齢者で、私くらいの年代の人はマイノリティです。そんな中で利用していると、ほとんど言いがかりに近い注意をおばさんから受けることが時々あり、注意された日は一日気分が最悪になってしまいます。具体例を挙げると、更衣室と大浴場の間に設けられた脱衣所で、ポーチに化粧水を入れて置いていただけで、『こんなところでそんなん(保湿)やらないで、向こう(更衣室)でやって』と一方的にいちゃもん付けられたり……おばさんがおばさんに注意しているのは見たことがありません(迷惑行為をするおばさんはフツーにいますがフツーに店員さんに注意されています)。この気分の悪さをどうしたらいいでしょうか。おばさんを倒す以外の回答を所望します。」
たほ先生からの回答
そういうおばさんって、例えば電車で座っていて、隣に座っている人のカバンの中にペットボトルが見えたら「電車の中でそんなん飲むな」って言ってくるんですかね?でも、電車の中でペットボトルを飲んではいけないというルールはありませんよね。それに、その人の事情もあります(例えば、体調の関係でこまめに水分をとることがどうしても必要な人だったりとか)。化粧水に関しても、人の持ち物をじろじろと見て、勝手にジャッジを下して、言いがかりをつけるという行為は浅はかだと思います。それに、自分より若い人だから注意ができるという不遜さもある。つまり、あなたはそんな人のことを相手にしなくてよいのです。道ですれ違った犬に吠えられて一日嫌な気分になったりしませんよね(Nさん「かなちい!!!!いやなきもちになる!!!!」)。それと同じで、(Nさん「あ、私のコメントは無視なんだ・・・」)「すいません」と口だけ言って、受け入れないといいと思います。個人的には、化粧水もそこで塗ればいいと思う。それで、さらにおばさんが逆上してきたら、係の人に迷惑行為をする人として突き出しましょう。そして将来自分がそういうおばさんにならないよう心がけることが大事ですね。
Tさん(東京都・年齢非公開・会社員)からのお悩み
「私は歳を取っていくのに、アイドルなどいわゆる『推し活』の対象となるような人たちの年齢が、二十歳そこそこから変わりません。いつも自分より若い子ばかり推してしまいます。推し活が楽しい反面、こんなことをしていいのだろうかという気持ちに時々なってしまいます。」
のい先生からの回答
自分の子どもくらいの年齢の女性と結婚する芸能人がしょっちゅう炎上するご時世に、若い子ばかり推してしまうことに悩む気持ち、よくわかります。私もKPОPの女の子が好きですが、せいぜいハタチそこそこで、中には高校生、いっそ中学生の年齢の子もいます。多分私たちのタブー観は至極真っ当なものだと思います。若い子たちの時間や才能をお金で買っていることを意識すると、推すこと自体に加害性があるのではないかとよく考えます。先日「成功したオタク」というドキュメンタリーを観ました。自分の推しが性犯罪で逮捕されたアイドルオタクの女子が自らメガホンをとり、自分のオタク友達を訪ねて率直な気持ちをインタビューして廻るのですが、どのオタクも推していた頃のことはかけがえのない思い出として大切にしつつ、推しの犯した罪の重さを受け止めかねている様子でした。この質問への回答は、「苦しみ続けろ」以外に私には思いつきません。私も苦しみますし、Tさんも苦しんでほしい。でも、この苦しみを捨ててしまったときに私たちは今度こそ有害なオタクになり得るのだと思います。
Nさん(東京都・三十代・会社員)からのお悩み
「コロナ禍を経て、独り言がひどくなってしまい、たいへん恥ずかしい思いをしています。先日は、近くに誰もいないと思って職場の自席から立ち上がりながら『ピッピカチュ~!』と言ったら、普通に真後ろに人がいました。特にパ行が出やすく、その他にも、変な電話を受けた後に『アピ・・・』とか、厄介なメールが来たときに『パピピ・・・』とか言ってしまいます。やめようと思うのですが、完全に無意識で言ってしまうので、ほぼ自動再生です。どうしたらいいでしょうか?」
たほ先生からの回答
まず、独り言が多くなったのは、コロナ禍のせいでなく、単なる老化ではないでしょうか?ちなみに私も多くなっています。しかし、パ行というのは、不幸中の幸いだと思います(かわいいので)。ガ行とかだったら絶対嫌だと思うよ。『ギギギィ!』とかイヤじゃない?これから出会う、誤解されたくない人には、「私、よく独り言を言ってしまうのですが、全部パ行でかわいくて加害性がないので安心してください」と先に申告しておきましょう。相手は嫌な気持ちにはならないと思います。でも、もし悪化して独り言の加害性が強くなってきたら、それは専門家の助けが必要になるので、私ではない人に相談してください。ピッピカチュ~。
Tさん(東京都・年齢非公開・会社員)からのお悩み
「仕事を辞めたいです。結婚したことによって私が辞めてもありがたいことに生活は維持できます。でも、今まで培ってきたものが全部チャラになって、年齢的にも安易に辞めることが難しいということは重々承知しています。辞めたい理由は、働きたくないという思いが強いことと、あとよく考えているのは、人生で何もしない時間があったことがないということ。何者でもないという時がなかった。本当はぼーっとしてみたいんだけど、そういうことをするにはもう遅すぎる年齢なんじゃないか。何をしてもいい時間が欲しいんです。もしかしたら資格の勉強始めるかもしれないし、アルバイトをするかもしれない、近所のパン屋で。そんな時間を手に入れたことがないから使い方も分からないんだけど。私の周りの人ではそういう時間を経験している人が多くて、そのことを良かったと振り返る人が多いから、自分も体験してみたい。でも、踏ん切りがつきません。」
のい先生からの回答
相談者さんのおっしゃる「空白の時間」を経験したことがある立場から回答しますが、私には無職には才能が必要だと思っています。人は、自分が何の役にも立っていないし、履歴書に書けることを何もしていない状況に、多くの場合耐えられません。中には、水を得た魚のようにイキイキと無職を楽しんだり、前向きに新しいことへの勉強を始めたりできる人もいますが、少数です。その才能は何か訓練によって身につくものではなく、生得的なものだというのが私の見解です。だから、このお悩みへの回答は「あなたに無職の才があるかどうか」に終始します。それを事前に知ることはできません。おすすめは、職場によっては難しいかもしれませんが、一度まとまった休みをとってみることです。メールや会議から完全に遮断されて何もしていない自分になってみる。それを疑似体験して、そわそわするのか、晴れやかな気持ちになるのか、自分を試してみてはいかがでしょうか。ちなみに私は才能ゼロでした。ただただ苦しい、苦しい日々を過ごしました。もう二度とあれは体験したくない。労働に感謝!労働に乾杯!
Nさん(東京都・三十代・会社員)からのお悩み
「私は独身で子どもがいません。それについて職場の年配の女性から『やっぱり子どもがいないと、一人前の大人ではない』と言われたことが非常に腹立たしく、『大人とはなにか』『人間の成熟とはなにか』をずっと考えてきました。今のところの結論としては、『庇護される側からする側へ移行すること、すなわち育てられる側から育てる側へ、守られる側から守る側へ自然と社会の中での役割が変わること』。これが大人になることで、大人として成熟するということは自分のみに向いていたフォーカスを、適宜他人に当てることができるようになることだとではないかと考えています。しかし、またこれも私の中だけでの勝手な基準であり、職場の人が結婚・出産という物差しで他人を測っているのと同種の行為ではないかと不安になります。そもそも、大人になる必要があるのかというところから疑問に思えてきました。でも、大人になりたい、人として成熟したいという思いは確かにあるのです。このジレンマをどうしたらいいでしょうか?」
たほ先生からの回答
逆に質問なんですけど、Nさんのものさしで見たときに、成熟してないなと思う人は周りにいますか?
Nさん
いますね(苦笑)最初に相談した職場の先輩とか。この件について考えるようになったのも、結婚出産おばさんに言われたことに加えて、「この人は私よりも年上なのに、どうしていまだにこんな中学生女子みたいなことをするんだ?」と疑問に思うことが増えたというのもあります。
たほ先生
でも、Nさんはそう考えたことを相手に伝えたり、自分のものさしを押し付けたりはしていないわけですよね?
Nさん
そうですね。頭の中で勝手に軽蔑したり嫌いになったりしますが、表面上は敬意をもって接します。
たほ先生
それがもうすでに正解かと思います。自分なりの尺度で社会のあれこれを測ってしまうのはある意味当然というか、誰にだってあることかと思います。私にもそういうものはありますし。その尺度に明確な答えはないですし、時代によって求められていることも変わっていくし、そもそもNさんの今後の人生のなかで価値観がガラリと変わる可能性だってある。そう考えたときに、未来の自分のためにも今の個人的な物差しを他人に強要しないことは重要で、Nさんの今の行動はそれこそ「大人な対応」に当てはまるのではないかと思います。
そういえばNさん、昨日テルマー湯で、どのシューズロッカーを使えばいいか分からなくて困っている人に「空いているところどこでも大丈夫ですよ」と声を掛けてあげてましたよね。乗り換えで迷っている観光客の人を、実際に駅まで連れて行ってあげたこともあった。何も子育てだけではなく、目の前の人を安心させる振る舞いができること。これって十分成熟していると言っていいんじゃないでしょうかね?
Nさん
あ~錦糸町に向かうバスの中にいたインドネシアの人ね!あったあったそんなこと。そしたら、これも最初の質問の陰口先輩やジムの言いがかりおばさんと同じで、見た目は大人・頭脳は中学生女子の人たちに対しても、拒絶はしないけど受け入れない、という姿勢が重要になってきそうですね。
たほ先生
そうですね。あくまで「こういうことを考える人もいるんだなあ」と自分の思考のストックくらいにしておいて、今後の創作活動などの肥しにしてやりましょう。矛盾しているようですが、いろんな人の物差しを知ること自体は悪くないと思うので。
私がNさんをすごいと思うところは、自身の中で湧き上がるモヤモヤとした気持ちを、定期的に言語化していること。私は、嫌なこと言われたら大量飲酒で押し流しちゃうし…。ぜひ、そのうまく言語化した思考の過程などを、世の中にシェアしてほしいと思います。
Nさん
ありがとう。大量飲酒はよくないと思います。
あとがき
のい先生
くぅ~疲れましたwこれにて完結です!人生相談に答えてみて、たほさんどうでしたか?
たほ先生
意外と答えられるなと思いました。でも自分がアドバイスしたことを自分自身がじゃあできてるのか?というのは別の話だと思いますが。
のい先生
私は普段からよく新聞のお悩み相談や、マシュマロによく答えているアルファアカウントを見て、自分ならどう答えるかのイメトレをしていたので、その成果が発揮されたと思います。
たほ先生
それにしてもミスチルの件は本当に酷かったと思います。登場人物全員傷ついてて、胸の痛くなる回答でした。
のい先生
私たちはたまに無頓着な言葉で汚しあって互いの未熟さに嫌気がさしますが、でもいつかは裸になり甘い体温に触れてやさしさを見せつけあう日がくると思います。
たほ先生
signの歌詞やめてください。
本当の本当に終わり